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中島勇一エッセイ「収穫を手にする」



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小さい頃、秋になると父親に連れられて、山芋堀りに行ったものです。

山の中を歩きながら、樹木にからみついている山芋のツルを捜します。紅葉して黄金色になったハート型の葉っぱを見つけたら、そのツルをどんどん根元の方へと辿っていきます。途中でそのツルが切れてしまわないように注意深く辿っていくと、ようやくツルが地中に入っていく場所に来ます。その下にイモがあるわけですが、まだ喜んではいけません。

畑での芋掘りとは違い、ツルは山中の土のなかに、深く深く入っています。早くイモを取りたいと焦って、スコップでツルを切ってしまうと山芋の場所が分からなくなってしまうので、注意深く堀り進めなければなりません。岩や大きな木の根にさえぎられて、これ以上掘り進められない限界を感じても、そこを迂回して掘っていくとツルは思ってもみなかった方向へと延びているのです。固い地面を深く掘っていくのは苦しいものですが、ようやく山芋が見つかるとワクワクに変わっていきます。そして柔らかい山芋が折れないように、ていねいに周りを堀っていくと、大きくて栄養たっぷり、ピカピカの山芋がゴロンと手の中に入るわけです。

山芋掘りのコツはただ一つ、苦しくても途中で決してツルを見失わないことです。

自我から見ると「問題」でも、心全体にとっては必要なもの

私たちの心がうまくいっていない状態は、ちょうど樹木に山芋のツルがからみついて、苦しくなっているような状態です。

私たちの心は、意識と無意識に分かれています。

意識は、心のなかで起きていることに気付いている領域のことで、意識を取りまとめているボスのようなものが「自我」です。

自我は、これが自分だという基準(アイデンティティーのこと。ものの見方、考え方、感じ方、価値観などが含まれる。例えば、弱い自分はダメだ、等)を持っています。自分の心のなかに、その基準から外れた気持ちがあることに自我が気づくと、イヤ〜な感じがして、「これは自分ではない」と、自我から切り離してしまいます。この切り離された心を「認められない自己」といいます。しかし、切り離してもそれは自分の心の一部なので、心のなかから追い出すことはできません。ただ、無意識の奥に追いやってしまうだけなのです。

自我は、心の全体から見るとほんの小さな部分なのですが、私たちは自我の領域にいるので、「井の中の蛙」のように、これが全てだと思っています。追いやられた「認められない自己」は、小さな自我の基準に合わないだけで、心全体にとっては必要なものなのです。だから自我が追いやっても、気づいてほしくて出てこようとします。それが自我にとっては、「問題が出てきた」ということになります。ちょうどイモからツルが伸びてきて、樹木に絡み付いているような状態です。時にはそれが、体の症状や何らかの痛みとなって現れることもあります。

心の奥深くに埋まっているイモ(=認められない自己)は、何とか気づいてほしくてツルを出してくるのですが、自我からは、イモはまったく未知の、今までの自分とはかけ離れているものに思えます。そのため、怖くてなかなか受け入れることができず、無意識の中に閉じこめてしまっているのです。

答えは、限界の向こう側にある

A子さんにはうつ症状がありました。

「私は今までセラピーを受けてきて、心の中にあるいろいろな事に気付いて、楽になってきました。でも、まだ心の中に何だか分からないけど、何かがあるような気がするんです」と話しながら、左手で胸の前の空間をつかむような仕草をしています。「何だか分からない」と言いながらも、彼女の左手は知らず知らずのうちに「何か」をつかむ仕草をしているのです。

そこで私は、彼女の頭の中の考えではなく、彼女がもうすでに左手の中につかんでいるものをたどっていくことにしました。

「左手を、そのままにして」と私がと言うと、A子さんは、自分でも左手がそのような形に動いていたことすら、気付いていなかったので、「えっ?」という表情で、初めて自分の左手を見ました。

私が、「その左手の中につかんでいる感じを感じてください。つかんでいるものはどんな感じ?」。

やがて彼女の心の中に、小さな女の子が縮こまっている姿が浮かんできました。

「私じゃいけないの?」と、訴えかけるような表情でA子さんを見ていると言います。

その女の子を見ているうちに、「死ねっ!」という言葉が、何度もA子さんの口から出てきました。彼女は普段から、何かうまくいかないことがあるたびに、自分に「死ね」と言うのが口癖になっていたそうです。それは、誰もがやっている普通のことだと思っていて、特に何も感じなかったのに、今は「死ねっ!」と、その子に言うたびに胸がぎゅっと苦しくなると言います。

「その胸の感じは、『死ね』と言われた女の子の気持ちじゃないのかな?」。

私が言うと、以前は何かを感じているときに、自分が感じていないような感覚だったのが、今は自分自身が感じているような感覚になった、と言います。胸の奥に追いやって、ずっと麻痺させていた気持ちが感じられるようになってきたのです。

そこでA子さんに、この胸の感じに意識を向けていってもらいました。すると、「弱い自分は、人に迷惑をかけている」という、A子さんが子供の頃に感じていた気持ちが出てきました。

彼女は、左手で右手首を強く握り絞めながら「強くなくてはいけない。弱い自分は殺したい」と言います。強くなりたいA子さんの自我は、弱い自分を殺してしまいたいほど許せないのです。それをさらに深く感じていってもらうと、イメージの中の弱い自分が、「好きにしたら」と言っている、と言います。

A子さんは、弱い自分の首を絞め始めました。

気が済むまで首を絞めてスッキリした彼女は、目の前で倒れている弱い自分を見ているうちに、何だか淋しいような、胸が空っぽな感じがしてきた、といいます。

「悪いことしたかなぁ。でも、どうしようもなかった。『ごめんね』って言いたいけど、言ったら何もかもが崩れてしまう気がする…」。

彼女は続けます。「せっかく傷つけたくない、認めたいという気持ちに辿り着いたのに、責めるのをやめたら大変なことになってしまう気がして、やめられない」。

途方に暮れた気持ちの中で、長い時間が過ぎ、A子さんは何度もため息をついています。

彼女の気持ちは、ここで立ち止まり、一歩も進めなくなってしまいました。「弱い自分は許せない」という自我の基準がジャマをして、葛藤から抜け出すことができないのです。弱い自分を許してしまうと、自分が今の自分でなくなってしまう怖れを自我は感じます。A子さんの自我にとっては、これが限界です。自我の中には、今までの基準に基づく答えしかないのです。彼女を本当に苦しみから解き放ち、より自由な新しい自分にしてくれる答えは、自我の限界の向こう側にしかないのです。

そこでA子さんに、倒れている「弱い自分」になってもらい、その気持ちを感じてもらいました。「弱い自分」は、自我が殺したいと思うほど追いやられた「認められない自己」です。だからこそ、自我の基準に縛られていないものの見方や感じ方を、A子さんに体験してもらうことができるのです。

弱い自分は、優しい自分

弱い自分になったA子さんは、首を絞められて死んでしまう苦しさと、誰にも受け入れてもらえない寂しさを感じて、胸がいっぱいになりました。

弱い自分は、その痛みに押しつぶされそうになりながらも、「A子が私のことを、『傷つけたくない、認めてあげたい』と思ってくれているのがわかるし、お前さえいなければうまくいくのにと私を責め、傷つけるのをやめられないのもよくわかるの」と気持ちを語り始めました。

「責めるのをやめられなくて苦しんでいるA子のことを、私が包んであげたい。こうしていると、この気持ちがだんだんとA子に届いていくのがわかるの」。

そこで今度は、A子さんに戻ってもらいます。

A子さんは、「ごめんね、どうしようもなかった。ごめんね」と言って泣き始めました。

「『強く生きなきゃ』と思ってきたけど、もう一人の自分を責めるのを止められない私は、結局弱いんですね…。心の奥にいる自分は、その弱さも、とても大きな優しさで包んでいてくれています」

A子さんの頬には、静かに涙が流れています。

「こんなに弱くてダメな自分なのに、それでも許してくれているもう一人の自分がこんなところにいたんだなぁ。…本当にありがとう」。

今までずっと、「弱い自分を許したら、大変なことになってしまう」という恐れがA子さんを苦しめてきました。胸がぎゅっとなる感じという、通り過ぎてしまいそうなサインを注意深く辿っていった結果、無意識の奥に埋もれていた、“弱い自分をも許してくれる大きな優しさ”という贈り物を受け取ることができたのです。

無意識の奥深く埋められている贈り物=イモは、自我が持っていないものの見方や、封印されていた能力、やりたいこと、新しい方向性などの宝庫です。無意識からの導きは、山芋のツルのように、身体の感覚や感情、イメージなどに表れてきます。

イモは、生命力にあふれています。

イモは、掘り出してもらいたがっています。

あなたがもっと自分らしく生きていくことができるように。

 

 

 


 
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