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中島勇一エッセイ「必要とされたい」



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子供の頃の私は、テレビのウルトラマンを欠かさずに見ていました。怪獣が大暴れして困った人々が「ウルトラマン助けて」と呼ぶと、颯爽と現れるのです。そして困った人を助けると、宇宙へ帰って行きます。パワーや能力にも憧れたのですが、何よりも惹き付けられたのは、必要とされているところに現れて、何も求めず、何も受け取らず、そして何も語らずに去っていくところです。言葉は交わさなくてもその場にいた人々全員が、去っていったウルトラマンのことを想っているのが分かります。

「素敵だなぁ。こんなふうに想われたらいいなぁ」という気持ちでした。

誰かが自分のことを必要としている。

子供の私は、いつかそれを実感したいと思ったものです。

相手に必要とされたいタイプと、相手に奉仕させたいタイプ

「誰かに必要とされたい」という気持ちは誰のなかにもあります。必要とされたい気持ちから、相手が求めることを察して自ら進んでしてあげようとしたり、仕事で頑張ったりします。資本主義の社会では、必要とされることはお金にもつながります。つまり必要とされることで承認や報酬を得ている自分は、価値がある存在だと思えるのです。

しかし、「誰かに必要とされたい」という気持ちが強すぎるあまり、支障をきたしている人もなかにはいます。

パートナーの男性に必要とされたい気持ちから、自分を犠牲にして尽くしたり、認めてほしくて頑張りすぎたりして、自分の人生が大きく振り回されてしまった、という女性がこれまで数多くカウンセリングに訪れました。

その人たちに共通しているのは、「自分は取るに足らない」という感覚、自分の居場所がないような、とても落ち着かない不安な感覚です。この感覚が、「誰かに自分を必要としてもらいたい」という気持ちを強く駆り立てるのです。

このタイプの女性は、誰かと親密感を感じたいのに、「自分なんて取るに足りない」という気持ちから人との深い関わりを避けているところがあるため、強引に迫ってくる男性でないとなかなか恋愛関係に発展しません。

さらに、自分には価値がないという気持ちが強いので、大切にされると「自分はそれほどの人間ではない、大切にされるような存在ではない」、という気持ちが強く出てきて、相手を受け入れられなくなってしまいます。逆に、「自分は大切にされるような存在じゃない」という自己イメージに見合った扱いをされると、つらいけれど納得のいく感じもするのです。そういう性格を、自分勝手なタイプの男性につけ込まれてしまうこともあります。

このタイプの男性は、巧妙に人をコントロールして自分の望むものを得ようとするのが特徴です。

最初は寂しそうに見せたり、「疲れてる」とため息をついてみせたり、「どうしても君が必要なんだ」と泣き落としで頼み込んだりもします。しかし一旦付き合いが始まると、理屈で言いくるめたり、罪悪感を感じさせたり、怒りや言葉の暴力で恐怖を感じさせたりして、次第に相手をコントロールして、自分の方が偉いんだという立場にもっていきます。そして相手の「必要とされたい」という気持ちを逆手にとって、自分に一方的に奉仕させるような関係に持ち込むのです。

一見、「俺はすごいんだ」というアピールが強く、偉そうな態度をしているのですが、実はこのタイプの男性もまた心の深いところでは、「自分は取るに足らない」と感じていて、自分が受け入れられているという実感がありません。だから、他人をコントロールして自分の欲求を満たさせることによって、自分は価値のある人間だと思おうとするのです。

このタイプは、自分の欲求を満たしてくれる相手のことを必要だと思うと、相手の価値を認めることになってしまいます。すると、普段は封じ込めてある「自分には価値がない」という感覚が際立ってしまうようで、不安になるのです。だから、相手を自分よりも低い位置に引きずり降ろすことで、安心しようとするのです。

以上でわかるように、「必要とされたい」タイプと「奉仕させたい」タイプは、心の奥ではどちらも「こんな自分は受け入れてもらえない」という自己イメージを強く持っている、似た者同士なのです。磁石のS極とN極のように、互いに強く引き寄せ合うのでしょう。そのため、「必要とされたい」タイプが「奉仕させたい」タイプに出会うと、人生を振り回されてしまいます。

「必要とされたい」タイプの人は、小さい頃に、親などの身近な存在から、「自分の気持ちに寄り添ってもらえた」、「分かってもらえた」という体験を得られなかった人が多いようです。

しかしこのタイプの親がいい加減な育てた方をしていたのかというと、決してそうではありません。むしろきちんとしたしつけをして、必要な物は与え、まじめに子育てに取り組んできた家庭が多いようです。

ただ親自身が、心の奥で「自分なんて取るに足らないという」感覚を持っていて、自己評価が低いので、ありのままの自分を子供に見せられず、子供との深い関わりを無意識のうちに避けてしまうのです。その結果、しつけや正しさを前面に出して、「こうするべき」ということを教えるだけの、子供からすれば堅苦しく、自分の居場所がないような関わり方になってしまうのです。

親が自分を取りつくろった姿で子供に接していると、子供は「ありのままの自分ではダメだ」と思うようになります。理想的なよい子になるしかない、という気持ちに追い込まれていきます。いつも寂しさがあるため、自分のことをもっと気にかけてほしいという切実な思いは出てくるのですが、そのためには相手に必要とされる自分になるしかない、と思うようになります。

自分は大切に思われている、と実感する

では、「必要とされたい」タイプは、どうすればこの気持ちから抜けられるのでしょうか。

それは、「自分は取るに足らない存在ではなく、大切な存在なんだ」と実感できる体験をすることです。

この体験をするための方法はいくつかあります。

過去に「自分は大切な存在だ」と実感できた体験を、催眠などを用いて、ありありと再体験していく方法も有効です。例えば、飼っていた猫が、あなたが寝ている布団に入ってきて甘えて体を寄せてきたときに、その猫からあたたかい親愛の情を感じられた…というような体験でも十分です。

たとえほんの微かでも、自分は大切な存在なんだな、という気持ちに似たような感じを体験していたとしたら、それを再体験してもらいながらふくらませて、心の中に定着させていくようなアプローチをします。

また、催眠の中で、大人のあなたが小さい頃の自分に出会って、大切に接してあげるという方法もあります。これは、他人から大切にされるよりも、もっと大きな効果が得られます。

大人の自分が小さい頃の自分に対して、「本当に寂しいんだね」とか「自分のことダメだと思っているんだね。でもダメじゃないよ」と、その子の気持ちに寄り添ってあげるとき、同じ自分だから嘘偽りないな、と感じるからです。大人の自分から見ても、寂しいときの自分はこんなふうにしてもらいたかったということが、無意識の中ではわかっています。だから、どうしてあげたらこの子が「大切にされた」と実感できるかがわかり、実行できるのです。すると、「必要とされることをしなくても、自分は大切に思われている」という気持ちが素直に心に響くのです。

ただ、小さい頃の自分に会った途端、「子供のくせに全然子供らしくなくて、むかつく」、「小憎たらしくて、近づく気にもなれない」と言う人も、このタイプには多くいます。子供らしく育つ時間を与えられていなかったので、小さい頃の自分が子供らしくないのも当然のことでしょう。

このように自分から近づいていけないときには、自分の内側にいて、自分をいつも見守っている自分に手伝ってもらう手法があります。

例えばあなたが激しく怒っているとき、自分のことを冷静に見ている自分がいるな、とふと気付く体験をされたことはないでしょうか。

このように自分の内側には、いろいろなことに気付いて、わかっていている部分があるのです。

イメージの中でその自分になりきっていくと、さっきまで生意気だとしか思えなかった小さい頃の自分のことが、違ったように感じられてきます。そして、その子のことを「気にかけてあげたいな」という気持ちが起きてくるのです。

大切な子供に贈りたいもの

「必要とされたい」という気持ちが強く、恋愛でいつも犠牲してしまうA子さんに、小さい頃の自分と出会うセラピーを行いました。

イメージのなかに現れた子供の自分は、下を向いて泣いています。両親は仕事で忙しく、一緒に遊んでもくれない。必要な物は与えてくれるけど、言うことは「勉強しなさい」ばっかり。しつけに厳しくて、心から寄り添ってもらった記憶がありません。

「お母さん、私のことをもっと気にかけてほしい」という気持ちと同時に、「こんな私だから一緒にいてくれないんだ」という気持ちがにじみ出てきて、その子は暗く萎んでいってしまいそうです。

そこでA子さんに、そのときの母親になってもらいました。母親の立場になって気持ちを感じていってもらうのです。催眠状態ではそれが簡単にできるのです。

すると母親になったA子さんは、ぽつりぽつりと語り始めました。

「私の家は貧しくて、両親はいつも忙しかった。誰も私の言うことなんか聞いてくれなかった。いつも寂しい思いをしたし、ほしい物も得られなかった。だから、娘には自分が子供の頃に得られなかった物や教育を与えたい。私とは違って、人から認めてもらえる立派な人間になってもらいたい」

すると、子供のA子ちゃんが出てきて言います。

「私はそんなものがほしいんじゃない。お母さんに一緒にいてほしい、お母さんの心を私に向けてほしいの」

「こんなちっぽけな自分が、あなたのそばに寄り添っていても、何のためにもならない。ありのままの私がそばにいるよりも、きちんとしたしつけや、教育の方が役に立つでしょう。取るに足らない、私の心なんか、恥ずかしくて見せられない。そんなものよりも、あなたにもっと必要な物をあげたほうがいいでしょう」

母親の気持ちを語っているうちに、閉じているA子さんの目から、静かに涙が流れ始めました。

「この子が大切だからこそ、こんなみすぼらしい自分を贈り物として与えるわけにはいかない。もっともっと生きていくのに役立つ物、素晴らしい物を贈りたい。そしてこの子にはみじめな思いをさせずに、幸せな人生を送ってもらいたい」

子供の頃には理解できなかった母親の深い気持ちが、今やっと、A子さんの心に伝わってきたのです。母親を求めてずっとさまよっていたA子さんの心の空洞が、静かな愛でいっぱいに満たされていきます。ありののままのお母さんを、大切な贈り物として受け取ることができたのです。

そして、お母さんが大切に思ってくれた自分のことを、ありのままに受け入れることができました。彼女はもう、誰かに必要としてもらうためだけに、自分を犠牲にしなくてもいいのです。

 

 

 


 
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